夏の始まりは模試と共に

最後の夏が始まった。
はは、まるでもう世界が終わってしまうみたいじゃないか。
そうだ、こんな世界は明日にでも滅んでしまえばいいのに…


暑い。
この時期に自転車を漕いで塾に行くのは辛い。
片道15分、気温34度、湿度不明。
俺が朝から憂鬱な気分になるのはそれだけで十分足りうる理由だった。


「おはようございまーす」
「お、相田くん。おはよう」
「あ、模試何時からでしたっけ?」
「んー9時30分からだね。もう教室空けてるから始まるまで自習してていいよー」

今日は、受験生にとっては夏の始まりの風物詩、第2回全統マーク模試がここの塾で実施される。

わざわざ知らない土地の試験会場まで行く手間が省けるおかげで随分と気苦労が減った。

教室に入ると既に多くの人が集まっていた。
どうやら浪人生だけでなく、この塾の高校生にも受ける人がいるようだ。

床に置かれた無数のバッグをかわしつつ、一番よくクーラーが当たりそうな席に座った。

「よっ」

前の席に翔太が座っていた。
緊張感のカケラもなく話しかけてくる。

「今日はどうだ?いけそうか?」
「うーん微妙…。参考書をちょっと見直したくらいかな」
「俺もだわ。まあ出題範囲も狭いしなんとかなるだろ」
「そ…そうだよな」

実はここ数日で理科や社会の出題範囲をガッチガチに固めてきたことは言わないでおいた。

理三志望がセンター対策を固めてきてるって知られてしまうことが少し恥ずかしくて…

その後翔太と他愛の無い雑談をしていると、よっちゃん先生が教室に入ってきた。

「はーい!じゃあそろそろ始めるよー。みんな気を楽にね」

ふぅー。
深く深呼吸をした。

俺は気を楽になんかしない、いやできない。
センター試験では一寸の油断も許されない。
少しでも気を抜くと、ズルズルと失点を積み重ねていくことになることは、この8年間で嫌という程体験してきた。
それがセンター試験の特性だ。

たかが夏のマーク模試ですら本番のつもりでやる。

練習は本番のつもりで。
本番は練習のつもりで。

昨日の夜にそう決めてきた。

「じゃあ問題用紙を配るねー。参考書しまってくださーい」

見知った環境で受けられるこの恵まれた状況の中で、最大限の力を発揮する。

それが今の俺がすべきことだ。

「はじめてください」

長い1日が始まるな‪​───‬

体にまとわりつくベタついた汗が、冷えていくのを感じた。