合宿‼︎

ある日『学習塾 マウンテン』に通う浪人生が全員集められた。

全員で14人で、小百合、みずき、翔太もその中に含まれる。

もう塾に通い出して一ヶ月が経つ。
見慣れた面子である。

教室のホワイトボードの目の前に立ったよっちゃん先生がこう言った。

「みんな、そろそろこの塾での勉強には慣れてきたかな?際立って調子の悪い人はいないようだけど、自分の勉強態度を今一度振り返ってみてください」

俺自身はというと、毎朝9時に塾に来て24時に帰って寝る生活を続けている。
多少計画に遅れが出ることもあるものの、悪くは無い感触だ。

ただ、このままで東大理三に手が届くのか?という不安は常にある。
夏の模試では、理三はともかく理一、理二でなんとしてもA判定、少なくともB判定は欲しい。今のままではそれすらも危うく感じるが…

「きっとみんなそれぞれ思うことがあると思います。まだまだ勉強できるぜって言う人、今のままじゃダメかもしれないって言う人、本当に人それぞれだと思います」

「今の『少し受験まで余裕を持って勉強に集中できる』時期が、実は直前期の勉強よりも一番大切になってきます。浪人生のみんなならよくわかるんじゃないかな?」

その通りだ。
直前期になればなるほど、焦りや不安から勉強が手につかなくなる。

なんであの時もっと勉強してなかったんだ、と後悔の念が何よりも先に出てくるのである。

「そこで、勉強できている人は限界を探るため、勉強できてない人は方向修正するために、このマウンテンではゴールデンウィークであるこの時期に2泊3日の勉強合宿を行います!」

合宿‪​───‬というと楽しそうな気配を感じるが、自分を追い込むための厳しい特訓と思っていた方がいいかもしれないな。
多少ワクワクしないこともないが…

「施設を借り切って合宿するからね。参加オッケーっていう人はこの用紙にサインして後日持って来て下さい。」

一枚の紙と何やらパンフレットのような冊子が配られた。
冊子の方は修学旅行のしおりのような感じか。

えっとなになに、紙の方に書かれているのは

『やる時はやる。これだけ約束できる人は名前を書いて下さい。』

か。

俺は決心し、すぐさま署名して、席を立ち一番で先生に提出した。

「相田くん、早いね」
「ハンターハンターで学んだので」

先生はよく分からないような困った顔をしていたが、後ろから

「ハハッ」

と翔太の笑い声が聞こえて少し救われた。

続いて、その翔太が提出し、次にみずきがあたふたしつつ急いで提出した。

「あなたたちもハンター?になりたいの?」

と首を傾げる先生は可愛らしかった。

「先生」

小百合の声が小さく響いた。

「ん、なーに?」
「質問があります」
「何かしら?」
「授業は行われないんですか?」
「ええ、全て自習にするつもりよ。もちろん私もつよし先生も行くから質問対応はいつでもできるわよ」

それなら。
と、次に小百合が提出した。

先生は戸惑いつつ

「こんなに早く集まったのあなた達が初めてよ」

と微笑みながら言った。

「他のみんなは親御さんに相談してから後日でもいいからねー」

と、今の状況に困惑する場をなだめた。

結局、その場で署名をしてすぐに提出したのは、俺、翔太、みずき、小百合の4人だけだった。

後日、締め切りがあり、14人中9人が参加することになった。
5人は家庭の用事で参加できないらしい。

そうだよな。
なんたって世間はゴールデンウィークだもんな。
と、即断即決した我ら4人の異例さを改めて感じたのだった。


合宿か…。
もう少しだけ頑張って自分を追い込んでみるか…。

年甲斐もなくはしゃぎたくなる自分を抑えつつ、妙に高揚した気分になったのは、合宿前日の夜のことだった。