模試が終わってみんなでBBQ

『ワイワイ、ガヤガヤ』

マーク模試が終わった後、『学習塾 マウンテン』のみんなでバーベキューがあった。

塾の近くの河原で行われたそれは、花見の時と同様に、小学生から中学生、高校生、浪人生が一堂に会する不思議な空間であった。

俺は陽気な空間が苦手で気が進まないのであったが、模試で疲れた頭ではそんなことにすら気が回らず、ただその場に佇んでいた。

バーベキューをしている横で流れている川の流れを目で追っていると

「みんなー!ちゃんと食べてるー?」

よっちゃん先生の声が響く。
あの先生はいつもみんなに囲まれて、その愛想を惜しげもなく振りまいていた。

ふと、全裸になって横で流れているこの川を泳ぎたくなった。
暦の上ではもうとっくに春だが、まだ肌寒い。

そんなことは御構い無しに、俺の全裸本能が雄叫びをあげる。
しかし、小学生の前で全裸になるのは流石にやめておいた方が良いだろう。
タイーホ案件待ったなしである。

全力で全裸欲を抑え込んでいると

「食べてます?」

一人の女の子が話しかけてきた。

模試で疲れた頭の俺は

「ああ。全裸にはならないよ」

とピントのずれた返しをしてしまった。

「え??なんです?」

すかさず聞き返された。

「いや、なんでもない。すまない」

そう言うほかなかった。

「あたし、みずきって言います」

お兄さんは?
そう聞かれて、自分をどのように紹介すれば当たり障りなくこの場を穏便に済ませ、彼女に立ち去ってもらえるだろう、という思考形態が出来上がるまで時間はそうかからなかった。
俺は少し一人になりたいんだ。

「俺は相田、浪人生だよ。事情があって歳はいってるけど」
「私も浪人生です。1浪です」

おあいにく、話はまだ続きそうだった。

「相田さん、おいくつですか?」
「君とは一回り弱離れているかな」
「どこ志望ですか?」
「り…理三…」

完全に彼女のペースに飲み込まれていた。
ぐいぐい来るタイプのやつや。

「あっ!あの理三の人ですか!凄いですね!」
「まあ目指すだけなら誰でもできるからね…」
「いや理三は目指せないですよ!あたしなんか一生浪人しても理三目指すなんて言えませんし!」

嫌味なのか素直にそう思って言っているのか判別がつかなかった。

「み…みずきちゃんはどこ目指しているの?」
「あたし、頭悪くって…。地方大学にでも引っかかればいいなって感じなんです」

一応文系なんですけど。
申し訳なさそうにそう付け加えた。

一度、行きたくもない大学に行って結局やめる羽目になった俺は、彼女に少し情が湧いた。

「まあどこの大学だろうが、まずはやりたい事がやれるかどうかで判断した方がいいよ。この塾にいれば、大抵の大学は行けるはずだから…。やりたいことはないの?」
「よくわかんないんです…。」
「先生には相談してみたの?」
「はい。でも『あなたのやりたいことはあなたにしか分からない』って言われちゃって…」

確かに…。
そこだけはいくらあの先生達でも分からないであろう。

「まあ俺にできる事があるならなんでも言ってみてくれ。俺でよければ相談に乗るから」
「はい!ありがとうございます!」

ボブヘアーの髪を揺らし、キラキラとした瞳で彼女はそう言った。

「あ!小百合さん!」

聞き覚えのある名が響いた。

「小百合さん、来てたんですね!」

遠くからでも遠慮なく話しかける彼女は、妹の一人の無邪気さのそれを彷彿させた。

ひどく地味な服装をした小百合がこちらに向かって歩いて来た。

「……来てたのか」
「……ええ、そうよ。悪い?」
「いや悪くはないが…」

彼女とはあれから挨拶を交わす程度の仲に留めていた。
なんだか厄介そうな物を抱えていそうだし。

「お二人とも知り合いだったんですね!」
「まあな。知り合い以上恋人未満って感じかな」
「範囲が広過ぎるわ。失敬ね。ゴキブリ以上ドブネズミ未満よ。」
「あなたの俺に対する印象は聞いてませんけど!?」

みずきを見ると、小百合と手を繋いでニコニコしていた。

「あたし達、同じ高校なんです!」

と嬉しそうにみずきが語る。

「学年はだいぶ離れているけどね。」

小百合が牽制する。

「学年なんて関係ないですよ!友達なんです。あたし達。」

ニッコニコのみずきだが、小百合はというと‪​───‬満更でもないような少し照れた顔をしていた。

お前、そんな顔できたのかよ。
萌えるじゃねーか。やめてくれ。

すると俺が見ていることに小百合が気付いた。

「萌え豚がこっちを見てるわ。気持ち悪い。早くあっちに行きましょう。」
「なんで分かったんだ!?」

みずきにフォローを求める視線を送ると‪​───‬こいつ、ニッコニコしててなにも聞いてねえ。

二人は早々に立ち去って行った。

その後ろ姿を目で送り、ふと横を見ると、さっきまで荒々しかった川の流れが、少しゆっくりに見えていた。