みんなで花見

件の浪人決起会が行われてからすぐの事だった。

またしても、よっちゃん先生が

「相田くん。今度、塾のみんなで花見をするからね。絶対来てね。」

と言う。

絶対、とは。

まるで俺が強制されなければ、約束をすっぽかすような人間であるみたいじゃないか。

‪​───‬事実、そのとおりであった。

同窓会に行ったこともなければ、成人式、クラス会、友人や親戚の冠婚葬祭にすら理由を付けて欠席してきた自負が、俺にはある。

欠席のプロとしてメディアに取り上げられてもおかしくないな。


『他人と密より自分の疎』

人と深く関わって煩わされるくらいなら、一人で孤独感を感じながらも生きる方がマシだ、と常々思ってきた。

が、最近はその考えもそろそろ変えたい、と思うのだ。
なぜなら、単純に一人でいることに少しだけ飽きてきてしまったからである。少しだけね。少しだけ。

とまあこんなくだらないことを思いながらも、単純に、若い子から何かしらのパワーを貰えるかもしれないと考えた俺は、その言葉に渋々頷いたのであった。

「あ、食材は持ち寄りだから。お菓子でもいいよ。」

ダルない?いや、ダルい。(反語)
最近の若者が食べそうな物とか分かんねーよ。
ここは無難に、ねるねるねるねとかわたパチでいいか?
世間ズレも大概である。
しょうがない、折衷案でひもQだ。

後日、近所のスーパーでひもQを大量に買い込み、花見が行われる会場へと向かった。


花見なんて、小学生以来だわ。

目の前が、桜色で覆われる前に、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「こ、こんにちはー…。」
「あ、きたきた!どうぞここに座って。」

よっちゃん先生が自らの隣を指差す。

周りには塾に通っているであろう小中学生が固まって一番賑やかな場所だった。
女子小学生だけならともかく、やかましい男子どももいる。

……そこだけは遠慮したい。

俺は少し離れたところに、つよし先生が数人の高校生?もしくは浪人生と座って談笑しているのを見つけた。

「あ、あそこに行ってきます。」
そう断って、ひもQを3つほど残し、足早にその場を去った。

「つよし先生、こんにちは。」
「お、登じゃ。こっち来んかい。」

ほれほれ、と手招きする。
向こうよりは落ち着いたその場所に俺は座った。

「おぬし、この前の決起会で随分と勇ましい演説をしたようじゃのお。」
「いや、まあその場に乗せられて…。」

大見得を切ったことを、他人から指摘されるほど気恥ずかしいものは無い。

「さっきもその話をしておったところじゃ。」

おーい、翔太ー。
そう言って俺の知らぬ名を呼んだ。

すると、背の高いスラっとした、いかにもな好青年がこちらに向かってやってきた。

「こいつは翔太じゃ。何浪じゃったかの」
「まだ1浪ですよ。先生。しっかりしてください」
「そうじゃった。そうじゃった」

つよし先生の足元にはビールの空き缶が数本あった。
この人、一人だけ楽しんでるやん…。

「おっ、理三志望さん。よっ」
「お、おう…」

やけに馴れ馴れしいが、イケメンなので許せた。イケメン無罪。

「いや、俺、あんたの理三志望宣言に感動したんだよ」
「感動するところあったか?」
「あの時のあんたはあの中で一番輝いてたぜ。雰囲気というか気迫というか。目がキラキラしてたんだ」
「そ、そうか」

年下から褒められて、喜んでいいのか分からなかった。

「そう言うお前はどこ志望なんだよ」
「俺か?俺は京都大学。文系だけどな」

俺が年上の再受験生だと知ってか知らずかタメ口を聞いてくる。
いい度胸をしてるじゃないか。

それとは関係ないが、イケメンで京大は反則なのでちょっと失敗してほしいという気持ちを頑張って抑えた。

「本当は阪大目指してたんだけどな。先生達に唆されて京大にしたんだ」
「唆されたってなんじゃ。悪ぅ言いよるなあ」

目が虚になりかけているつよし先生が横から口を挟む。

「ま、一年間よろしくな」
「お、おう」

生意気だが、どこか憎めない彼は、さしずめ世渡り上手なのだろう。
羨ましい限りである。

そこらに生えている名の無い野草も、桜の花びらのように美しくなりたいと思ったりするんだろうか。

俺は翔太にひもQを一つ手渡し、酔い潰れたつよし先生の足元にもひもQを一つ置いた。

時を同じくして翔太がよっちゃん先生に呼ばれ、向こうへ愛想良く駆けていく。

手持ち無沙汰になった俺は、小うるさい子供達の声をBGMに、桜の木の下で昼寝でもしてみることにしたのだった。